「認知症の恐れ」7000人、免許更新に新たな課題 事故との因果関係は不明瞭

2018年5月23日

 75歳以上の後期高齢者のドライバーによる痛ましい事故が後を絶たない。要因で目立つのが、認知機能の低下だ。事故防止の強化として、警察庁が2017年3月、認知機能検査で早期発見を進めた結果、「今後、認知症の恐れ」のドライバーが約7000人に上ることが判明。“認知症予備軍”の免許更新をどうするのか。高齢ドライバー対策で新たな課題が浮かんできた。
 「どこをどう走ったか覚えていない」。横浜市の閑静な住宅街。16年、集団登校中の小学生の列に軽トラックが突然、突っ込んだ。逮捕された運転手の80代の男性は道に迷って運転。1年生の男児ら8人が死傷する惨事を招いた。事故後に認知症と判明したが、本人に自覚はなかったという。長時間運転の疲労の影響などで過失責任を問えず、不起訴処分となった。
 ブレーキとアクセルの踏み間違い、ハンドルの操作ミスによる暴走……。75歳以上が加害者となる死亡事故は17年に418件発生。死亡事故全体に占める割合は10年前に比べ4ポイント増の12.9%に上昇したほか、人口当たりをみても75歳未満の2倍を超える。
 対策が強化されたのは17年3月の改正道路交通法施行で、3年ごとの免許更新時に行ってきた75歳以上の認知機能検査のフォロー態勢などを拡充した。検査では認知症の恐れの「第1分類」、認知機能低下の恐れの「第2分類」、認知機能に問題ないとする「第3分類」に判定。第1分類の場合のみ、全員に医師の診断を義務付けた。
 実際、17年末までに「第1分類」の判定は約4万6900人。この中には免許を自主返納した高齢者らもいたが、原則6カ月後の診断書提出を条件に免許更新を認められた高齢者は7133人に上った。明白な認知症とは言えず、免許取り消しや停止にならなかったケースだ。
 「今後、認知症の恐れのドライバーの割合が思った以上に高い」「分析が必要だ」。18年3月に開かれた高齢ドライバー事故と認知症に関する警察庁の有識者会議。認知症の恐れがあるドライバーが運転するリスクを巡る懸念の声が噴出した。委員の石田敏郎・早稲田大名誉教授(交通心理学)は「認知症そのものの診断が難しいのがネック」と説明。会議では事故や運転行動を追跡調査し、運転リスクを分析することにとどまった。
 認知症リスクの恐れがある高齢者を一律に免許取り消しにできない背景には、認知症と運転の危険性の因果関係が医療でも確立されていない点がある。物忘れが多くなったなど初期段階での運転リスクを示す客観的なデータは世界的にも蓄積されていない。日本認知症学会なども提言で「一般高齢者との運転行動の違いは必ずしも明らかではない」と指摘する。
 運転の機会を奪うことはお年寄りの生活を直撃しかねない。過疎化で路線バスや鉄道の廃線が進み、買い物や通院に車が欠かせない地域も多く、免許を手放せない現実にも向き合う必要がある。
 現在、警察庁の高齢ドライバーの事故防止対策は、認知機能検査の強化と免許の自主返納の両輪で進む。17年の自主返納は前年比1.5倍以上の約25万人と過去最多を更新したとはいえ、高齢運転者の5%にすぎない。
 海外に目を転じれば、ドイツやアイルランドが早期認知症について運転時間・場所の制限や免許の有効期間の短縮などの対策を講じる。米イリノイ州のように高齢者に実車試験を課し、運転能力をチェックするケースもある。
 日本では20年末の75歳以上のドライバーは推計600万人に上り、高齢者を含めた交通事故の経済損失は年間6兆3000億円との内閣府の試算もある。誰もが年を取れば認知機能や身体能力が衰え、運転リスクは高まる。繰り返される事故に、遺族のやるせない思いは計り知れない。高知大医学部の上村直人講師は「危険性ある人を正しく診断することや、運転中断後の生活を保障する社会制度など包括的な対応が必要だ」と提言している。

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