失敗例から学ぶ薬局・介護施設M&A(1)焦って進めてはいけない、M&Aの思わぬ失敗リスク

キャリアブレインマネジメント 2018年05⽉21⽇

【株式会社CBパートナーズ・代表取締役 井上陽平】
 医療・介護・福祉分野のM&Aは、ほかの業界と同じように、⾮常に重要な事業展開の⼿段と考えられています。M&Aの⽬的⾃体が⾃社の早期の利益獲得や収益改善、ノウハウの吸収に直結するからです。
 そのため、特に調剤薬局・介護業界では、ニュースで知ったり、近隣の薬局や介護施設の経営⺟体がいつの間にか変わっているのを⽬にしたりして、M&Aが昨今、活発なことを肌で感じている⼈が増えているのではないでしょうか。
 この春、診療報酬・介護報酬のダブル改定を経て、2018年度は調剤薬局・介護業界にとって⼤きな節⽬となります。年々強くなる逆⾵が業界全体に吹き、それによって譲渡側(売り⼿)の事業⾃体の評価が年を追うごとに下がり、譲受側(買い⼿)にとっての“うま味”が減少してしまいます。そのため、「評価やうま味がこれ以上減る前に」と、調剤薬局・介護業界でM&Aが活発化しているといえます。
 過去には、例えば調剤報酬改定の前後で市場評価に1億円の差が出た法⼈もありました。だからこそ、薬局や介護施設の譲渡を焦って検討する経営者からの相談が多く寄せられますが、忘れてはならないのは、「M&Aは必ずしも成功が約束されたものではなく、失敗は少なからず存在し、思わぬところで失敗してしまうケースも多い」ということです。
 また、ひと⾔で「失敗」と⾔ってもさまざまなことがありますが、私たちは、薬局や介護施設のM&Aでの失敗の理由は、主に以下のようなものだと考えています。

<売り⼿にとっての失敗の理由>
・ 譲渡⽬前での思わぬ障害によって破談になった
・ ⼀般的なものよりも圧倒的に悪い条件での取引になった
・ 進める中で利害関係者に情報が漏れてしまった
<買い⼿にとっての失敗の理由>
・ 想定外の⼤きな追加費⽤が発⽣した
・ 引き継ぎがうまくいかずスタッフが⼤勢辞めてしまった
・ 患者や利⽤者が⾒通し以上に減ってしまった
 ただし、これらの失敗にも必ず何かしらの原因があります。

■リスクなどの「⾒える化」によって失敗防⽌につなげる
  そもそも、どのような失敗が存在するかを把握して、そのタイミングやリスクを「⾒える化」し、未然に防ぐための備えをすることによって、失敗の回避につなげられるといえます。
 以下に、M&Aを焦って進めてしまったために起きた2つの失敗例を紹介します。⾃社のケースに当てはめながら、どのようなリスク対策を講じるべきか考えてみてはいかがでしょうか。

■⾃分の権利関係を要確認
【事例1】関東で介護施設を経営する40歳代のオーナー(A)の場合
 Aは、介護報酬改定の⾒通しなど業界の⾏く末に不安を感じていた。そうした折、ある企業から買収に関する話を持ち掛けられ、直接譲渡を進めることを決めた。
 介護施設の経営の実務を⾃分で担っていたAは、譲渡に関する判断も⾃分でしようと考え、買い⼿企業との交渉を開始。次第に条件も煮詰まってきた。
 ところが、いざ内部資料を整理してみると、出資⽐率の3分の2以上の⾃社株を保有していないことが判明した。案の定、経営に参画していなかったほかの株主が譲渡に反対。結局、譲渡を断念せざるを得なくなった。
 このケースでの失敗の要因は、M&Aを進める上で⾃分の権利関係を、Aさんが正確に把握していなかったことです。失敗例というよりは、むしろ「譲渡を進める前に整理すべきことがあったケース」といえます。
 株主や役員の意思の不統⼀が交渉を進める前に分かっていれば、⼤きな問題とはなりません。しかし、交渉の途中でそれが判明すると、交渉相⼿に⼤きな負担を掛けてしまう恐れがあります。
 従って、事例1のような失敗を防ぐ対策としては、不⽤意に買い⼿との交渉を始める前に、まずは⾃分がM&Aを進められる権利関係にあるのかどうかを確認し、必要に応じて株主間で協議を済ませ、その後にM&Aの交渉をスタートさせなければなりません。

■知⼈でも「取引相⼿」という視点で
【事例2】九州で調剤薬局を経営する60歳代のオーナー(B)の場合
 息⼦が経営を継ぐ意思がないため、Bは後継者がいないことを知⼈の薬局経営者に相談し、譲渡を決定。条件⾯がある程度まとまり、譲渡契約書の締結、処⽅元や従業員への告知もスムーズに終えた。 
 ところが、譲渡⽇の直前にBはその知⼈(買い⼿)から、「譲渡対価を分割⽀払いにしたい」との要望を受けた。それまでの付き合いもあったため、Bはこの求めをむげにできず、やむを得ず承諾した。
 しかし、譲渡実⾏後、従業員の退職など想定外の事態が発⽣。買い⼿の不安材料が思っていたよりも増えたことで、Bは分割⽀払いの減額を要求された。その知⼈とお⾦のことでもめて、後味の悪い結果となった。
 事例2の失敗要因は、Bさんが知⼈のよしみということで若⼲ルーズな取り決めをしてしまったことです。
 分割⽀払いにするということは、債権者としての期間が⻑くなることを意味し、その分、トラブルが起こる可能性が⾼まるのです。
 M&Aでは、知⼈といえども、あくまでも「契約を結ぶ取引相⼿」という視点が必要です。事例2のような失敗を防ぐ対策として、仮に相⼿を「取引相⼿」と⾒ることができなかったり、後々のもめ事を回避したかったりするのなら、買い⼿や売り⼿を「情」で選ぶことはお勧めしません。

■何をすべきか優先順位をつけて効率的な⾏動を
 もし、薬局や介護施設のM&Aを検討しているのなら、成功事例からこつをつかむことは⼤切です。しかしそれ以上に、失敗事例からリスク対策を検討することも⾮常に重要です。
 今回紹介した失敗事例を参考にして、M&Aを進めるに当たってまずは何をすべきなのか優先順位をつけて、効率的に⾏動することを⼼掛けましょう。
また、経営者はたとえM&Aが進⾏中であっても、本業に注⼒しなければならないことも多いと思います。専⾨的な知⾒が必要な場合、M&Aの成約と経営を両⽴させることに専念し、私たちを含めて、専⾨家の意⾒を聞いた上で、可能な部分は任せてしまうことをお勧めします。

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