[解説スペシャル]「孤独は社会問題」英の挑戦 カフェに集う場 郵便会社の見守りも

読売新聞 2018年12月22日

 英国で今年、孤独の問題が大きな話題を呼んだ。1月には孤独問題担当大臣が新設され、10月には英政府の戦略が発表されるなど、「孤独」を社会問題と位置づけ、国を挙げて取り組みを始めている。(編集委員 宮智泉)

「健康むしばむ」
 「英国には400万の孤独な高齢者がいます。その多くがこのクリスマスを一人で過ごします。私たちはそれを変えていきたい」
 11月下旬から、英国の五つの高齢者団体や慈善団体などが中核となった組織「孤独を終わらせるキャンペーン」が、クリスマスの寄付を呼びかけている。家族が集い、食卓を囲むこの時期は、孤独な人にとって、一番厳しい時だからだ。
 政策・調査担当ディレクターのサム・ディックさんは「今年は孤独の問題が広く世間に提起され、少しでも多くの人が関心を持ってくれれば」と話す。
 同組織が10月にロンドン市内で開催した総会には、全国から高齢者団体関係者や研究者ら300人が参加。今年1月に就任したトレーシー・クラウチ孤独問題担当大臣(当時、11月1日に辞任)も出席した。
 「孤独は、高齢者だけでなく、誰にでも起きうる問題。健康もむしばむ。だからこそアクションを起こさなければならない」と、孤独が社会全体の問題であることを強調した。
 総会では、スペインやノルウェーなどの自治体やNGOの取り組み事例が紹介された。また孤独が健康に及ぼす影響を研究している米ブリガム・ヤング大学のジュリアン・ホルト・ランスタッド教授が、社会的なつながりは人間の欲求であると解説した。

若い世代でも
 英国赤十字と生協の共同調査(2016年)では、約900万人の成人が「しばしば」または「いつも」孤独を感じている。政府の調査では、孤独を「しばしば」または「いつも」感じる世代は、16~24歳と25~34歳が8%と最も多く、高齢者だけの問題でないことがわかる。
 この「孤独」をいち早く社会問題ととらえたのが、ジョー・コックス下院議員だった。15年の初当選後、保守党の議員と共に孤独問題の対策を検討する委員会を設立した。しかし、16年6月、英国のEU(欧州連合)離脱を問う国民投票の直前に、極右の男に殺害された。
 同委員会は17年12月に報告書を発表した。孤独は「1日15本のたばこを吸うのと同じくらい健康に有害」「英国経済に320億ポンド(約4・4兆円)の損失を与える」などのデータを示しながら、慢性化は不健康になりやすく、うつ病や心疾患、認知症などのリスクを高め、人間関係を構築する能力にも悪影響を及ぼすと指摘。そして政府のリーダーシップ、継続的なデータの必要性などを訴えた。
 メイ首相はその遺志を引き継ぐ形で、孤独問題担当大臣を新設。さらに10月に発表した政府の戦略では、コミュニティーで人が集うスペースを増やすための基金の拠出や、英国の郵便会社ロイヤルメールと協力した配達員の見守りサービス、職場での社員の孤独に対する企業の取り組み、進展状況を記した年次報告書の発行などを盛り込んだ。

コスタコーヒーの店内には、おしゃべりしたい人のためのテーブルが設けられている(ロンドン市内で)=宮智泉撮影

無料で飲み物
 人が集うカフェやパブを活用する動きも出ている。
 英国の大手コーヒーショップチェーン「コスタコーヒー」は、8月から全国300の店舗で、「ほかのお客さんと、おしゃべりしたい人のためのテーブルです」と書いたボードを立てたテーブルを設けた。
 同社サステナビリティー担当責任者のビクトリア・ムアハウスさんは「孤独が問題となっている中、人をつなぐ場として店が活用できれば」と説明する。
 サフォーク州では、慈善団体が地域のパブやカフェなどに呼びかけ、客が少ない毎週月曜の午前中を活用し、無料でコーヒーや紅茶を提供し、地域の人が気軽に集う場を作っている。責任者のアン・オズボーンさんは「高齢者だけでなく、子育て中の親たちもちょっとおしゃべりしたいとやってくる」という。
 孤独はあくまで主観的なものという意見はあるが、高齢化や貧困、健康問題とも結びついており、多くの国が抱える問題でもある。
 英国政府の取り組みが社会をどう変えるか、世界が注視している。

つながる強さ 数より質
 アメリカでは、オバマ政権時に公衆衛生局長官を務めた医師のビベック・マーシーさんが2017年9月の「ハーバード・ビジネス・レビュー」に、「『職場の孤独』という伝染病」という論文を発表して話題になった。
 孤独という伝染病が世界的に広がりつつあり、人々の創造力を狭め、意思決定などの職務遂行機能を損ない、仕事のパフォーマンスを低下させると指摘。SNSで友達がたくさんいても、孤独な場合があり、社会的なつながりの強さは数だけで決まるのではなく、質であると述べている。
 日本でも、単身者世帯率は34・5%、生涯未婚率も男性23・37%、女性14・06%でいずれも上昇している。
 誰にもみとられることなく自宅で亡くなる孤独死が増えるなど、孤独は世代を超えた問題になっている。
 そのため、日本郵便や新聞販売店などが見守りサービスを行う地域が増えている。
 しかし、その一方で、孤独の効用や楽しみ方など、孤独を肯定的にとらえた書籍も相次いで出版されている。

英国政府の主な政策
▽カフェやアートスペースなど、新たなコミュニティー空間を増やす
▽郵便会社ロイヤルメールと提携した見守りサービス
▽有名企業がネットワークを作り、職場での孤独な社員に対するサポートを強化
▽かかりつけ医が孤独を感じる患者に対して、必要な地域のサービスにつなげる

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