医療再編時代を⽣き抜くためのM&A活⽤術(3)病院再編は25年前後ピークに、「経営⼒格差」が鮮明に

キャリアブレインマネジメント 2018年12⽉03⽇

【株式会社⽇本M&Aセンター 医療介護⽀援部 シニアディールマネージャー 森⼭智樹】
 前回は、医療業界の動向、M&Aの活⽤法など、医療再編時代を⽣き抜く上でM&A活⽤が有効な⼿段であることをお伝えしましたが、今回は、医療機関の種類別に⾒たM&Aの現状と今後の⾏⽅について解説したいと思います。

■診療所は科⽬によりM&Aの傾向が異なる
 診療所を「⼀般外来」「訪問診療」「透析」「健診」に⼤別して考えると、それぞれにM&Aや再編の傾向が異なります。
 「⼀般外来」については、かかりつけ医としての機能が評価される傾向にあり、通常通り診療を⾏っていれば存続できる業界なので、M&Aは積極的には⾏われていません。あるとすれば、開業したい先⽣が引き継ぐ「承継開業」という形が多く、 会というようなグループ展開をしている例もありますが、再編が⼀気に進む業界ではないと考えています。
 ただ、地⽅の診療所については後継者問題が深刻で、無床診療所で90%以上、有床診療所で80%以上は後継者がいないということが帝国データバンクの調査で分かっています。診療所の数が飽和状態に向かう中で、「承継開業」という、診療所の事業を個⼈で引き受けるパターンが今後は増えてくると予測しています。
 「訪問診療」は、今後M&Aにより再編が進む業界です。その主体は、在宅療養⽀援診療所になりますが、この算定要件には24時間対応可能な体制を維持することなどが含まれていて、⼈材確保などハードルが⾮常に⾼いです。この問題は、後述する⼀般病院と全く同じ構造なので、これから再編が進んでいくでしょう。
 ただ、業界的にはまだ歴史が浅く、理事⻑が50歳代-60歳代前半と現役世代なので、今はそれほど活発ではない印象です。しかし、今現在は診療報酬の各種点数の加算が算定されていても、在宅医療の推進に向けて制度が定着してくれば、算定要件が厳しくなることは容易に想像できます。
 算定要件を維持するには単独では難しく、組織化を推進し規模を⼤きくしていく必要があることを考えると、その⼀⼿段としてM&Aを活⽤するメリットは⾮常に⼤きいです。
 現に組織安定化のため、M&Aを活⽤して⼤⼿グループと⼿を組み、ご⾃⾝は理事⻑として残って診療に集中したいという相談も増えてきています。
 「透析」は、これまでの政策決定の推移を踏まえると、業界再編はまだ少し将来の話になりそうです。⼀⽅で、この領域は透析患者の奪い合いの様相を呈しており、設備投資能⼒を備え、かつ、医師・看護師・臨床⼯学技師といった⼈材の採⽤能⼒が⾼い医療法⼈に⼈気が集まる傾向があります。
 全盛期に⽐べれば減収傾向にあるものの、依然として他の診療部⾨と⽐べれば収益性が⾼い診療所は多いです。しかしながら、先を⾒据える透析診療所の経営者の中には、少しずつ減算の流れを想定し、「今だからこそ」という譲渡の相談は増えてきています。
 「健診」は、診療所とは似て⾮なる医療施設だと考えています。ビジネスモデルを考えると、リスクの低い「⾃費」の医療施設として⾒る⽅がしっくりくるのではないでしょうか。KPI(重要業績評価指標)を設定し、稼働率と提供するサービスの品質を同時に担保することができている場合、極めて⾼い収益性を持つ施設は少なくありません。また、この分野がターゲットとしているのは「患者」ではなく「健常者」なので、医療法⼈ではない⼀般事業会社も参⼊を検討しやすい分野であることが特徴です。
 健診の延⻑線上には「⼈間ドック」がありますが、これらも⼀般事業会社が富裕層をターゲットにしたサービス展開を考えている分野です。今後はさらに設備投資を⾏うことができる体⼒のある医療機関や⼀般事業会社を中⼼として、M&Aによる再編が起きる可能性があるでしょう。

■病院再編にとって⼤きな問題は「後継者」
 病院業界はまさに再編の真っただ中にあり、⼀部では淘汰の時代に⼊りました。国は、医療機関の収⼊に直結する病床数の削減⽅針を打ち出しており、病院もその対応に苦慮しています。
 ⽣き残るためにどこかと組むことを検討している経営者もいれば、有効な⼿⽴てを打てずに後れを取ってしまっているところもあります。特に顕著なのが、「療養病床」を多く抱えていた病院です。ここはかなり経営に影響が出ており、再編が進んで淘汰されている状況です。
 また、しばしば経営に関する具体的な⼿⽴て、例えば「診療報酬の改定」や「病床機能の転換」、「病棟の建て替え」、「⼈材の採⽤計画」といった論点に⽬が⾏きがちですが、実際はそれよりももっと⼤きな問題から⽬を背けている傾向があるのではないでしょうか。
 将来の病院経営を担っていくべき⼈材、つまりは「後継者」についての問題解決を、先延ばしにしている医療機関が⾮常に多く⾒受けられるということです。こういった医療機関も厳しい時代に直⾯していくであろうと予想しています。
 創業理事⻑からすれば、⾃⾝の⼦どもたちに後継ぎとなってもらいたいと思うでしょうし、その気持ちは痛いほど理解できるものの、実際には親⼦間でのコミュニケーションが⼗分でなく、すれ違いが続くことが10年にも及び、具体的には何も決まらず関係者全員が振り回されるというケースを⽬にしてきました。
 願わくは、病院で働く従業員、病院を利⽤している患者、地域医療の3点を踏まえた家族会議を⾏った上で、もしご⼦息が後継ぎとならないのであれば、早期に⾃院の将来有望な親族外の医師に内部承継をさせるためのロードマップを作成していく、また、それが難しければ外部の第三者に承継をさせることを考えるなど、「将来の⽅向性」を決めなければいけない時期に差し掛かっています。いずれにしても、医療機関に残されている時間はそう多くはないでしょう。
 後期⾼齢者が増える2025年までに、医療・介護のダブル改定は24年の1回しかありません。次のダブル改定時は、18年よりも⼤きな改定になると考えられるので、それまでに国の⽅針に沿った医療提供体制を整えて、経営を軌道に乗せることができない医療機関は淘汰されてしまうでしょう。25年前後に再編はピークを迎え、「病院の経営⼒格差」はより鮮明になっていくものと考えています。

森⼭智樹(もりやま・ともき)
 1988年新潟⽣まれ。2010年東海⼤卒業。医療機関向け総合商社で、病院新築移転コンサルティング業務に従事。⼤学病院などの新築移転を担当。14年に⽇本M&Aセンター⼊社。⼊社以来、⼀貫して医療介護分野に従事。医療法⼈M&A専⾨のコンサルタントとして、50件以上の案件に関わる。医療法⼈の出資持分譲渡・事業譲渡など、さまざまなストラクチャーを経験して、多様化する医療法⼈の種類全てに対応している。

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