「365⽇通所介護」の落⽇と営業⽇限定・少数精鋭の戦略 快筆乱⿇!masaが読み解く介護の今(33)

キャリアブレインマネジメント 2018年11⽉29⽇

【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】
 ⽣き残ることができる種(しゅ)とは、最も強い種ではなく、最も賢い種でもない。変化できる種だけだといったことがいわれるが、これは介護事業も同じである。
 介護保険制度によって、⽇本の⾼齢者介護サービスは劇的に変化した。制度⾃体も“⾛りながら考える”ようにスタートしたために、この18年間でマイナーチェンジ・メジャーチェンジを繰り返し、社会情勢の変化と相まって介護事業者の置かれる状況も⼤きく変わってきた。それに付いていける事業者だけが⽣き残っていけるのであり、制度開始当初の事業経営ノウハウにこだわっている事業者は先細りの⼀途をたどり、事業廃⽌に追い込まれざるを得ないだろう。
 通所介護事業などは典型的なサービスだろう。制度発⾜当初の介護報酬は、介護バブルといわれたほど⾼く設定されていたが、中でも通所介護費は、1時間当たりの報酬単価が特別養護⽼⼈ホームの単価より⾼かった。しかも事業者数が少なかった当初は、事業を⽴ち上げれば利⽤者確保に困ることはなかったし、⽇中のサービスのため「夜勤をしなくてよい介護労働」を求める求職者のニーズとマッチし、⼈材確保にも苦労しなかった。しかも⼩規模通所介護事業は⽐較的安い資⾦で事業を⽴ち上げられた。事業を⽴ち上げれば、さほどの経営努⼒をする必要もなく収益を上げることができたのである。
 そうした背景から、通所介護事業はフランチャイズ展開も可能だった。経営や介護の知識に⽋けている経営者でも、事業⽴ち上げや経営ノウハウを教えてもらうためにフランチャイズに加盟し、親会社に加盟料⾦やロイヤリティーを⽀払い、経営や運営は“おんぶに抱っこ”の状態でも、利⽤者確保には困らず、営業収益は上げられたわけである。
 お泊まりデイも、夜間の保険外宿泊料を収益の柱の⼀つにする発想で⽣まれたわけではなかった。宿泊する当⽇、宿泊している間、⾃宅などに帰る⽇の全てが保険給付額の⾼い通所介護の利⽤⽇となるため、収益が上がることを⾒越したものだった。
 その過程の中で⼩規模通所介護事業者数が急速に増え、地域の中で競合する事業者が増え、サービス競争を余儀なくされていった。
 利⽤者の中⼼も⼤正⽣まれや昭和1桁⽣まれの⼈から、さらに若い世代に変わっていき、通所介護のサービスメニューへのニーズも変化してきた。当然、利⽤者から選択されるため、サービスの質向上だけでなく、他事業者との差別化が求められた。つまり、経営能⼒が問われることになった。
 そうした状況が、365⽇休みなく営業する通所介護事業所を誕⽣させる背景となった。
 10年ほど前の当時、⼟⽇・祝⽇が休みの通所介護事業所がほとんどだったが、「介護に休みはない」という本質にアプローチする形で、⼟⽇・祝⽇にレスパイトサービスを必要とする⼈のニーズに合わせ、365⽇営業の事業所が徐々に増えていった。
 その時期には休業⽇のない通所介護であること⾃体が、⾼品質サービスと捉えられ、休業⽇のある通所介護事業所との差別化を図るための売りにできた。
 当然ながら、看護・介護職員や相談員の数は増やさねばならず、⼈件費は増えるが、それ以上に休⽇営業の収益は⼤きかった。仮に⼟⽇・祝⽇にサービス利⽤したい⼈が少なく、その営業⽇にペイしなくても、⼟⽇祝にも営業していることが平⽇の利⽤者の掘り起こしにもつながり、結果として全体の収益増につながっていた。⼟⽇祝の営業は、それなりに意味があったのである。
 しかし現在の通所介護事業を巡る状況はさらに変化し、当時とは全く異なってきている。365⽇営業のデイサービス事業所が⽣まれた頃と⽐較すると、通所介護の保険給付額は⼤幅に下がり、その⼀⽅で⼈材不⾜・⼈員不⾜が深刻化し、⼈件費は⾼騰している。
 そんな状況に鑑みつつ、未来を⾒つめたときに、果たして休業⽇のない365⽇営業の通所介護事業は、経営戦略として成⽴するのか。通所リハビリ事業にも同じことが⾔えるだろう。
 通所介護の顧客の中⼼層は、いよいよ団塊の世代になっていく。この世代は⽇本経済を⽀えてきたのと同時に、⺟数の⼤きい“塊”であることから、あらゆる場⾯で彼らのニーズは最⼤限配慮されてきたとも⾔える。企業は、団塊の世代に売れる商品を開発すれば、ほかの世代に売れなくてももうけられた。
 そういった世代の⼈々から、どうやって選ばれるのかは、介護事業者に最も求められる視点となる。彼らは通所介護事業所を選択する際にも、スマホやタブレットを使い、ネットの⼝コミ情報を基に事業所を選択するだろう。そうであれば、介護の質はもちろん、サービスマナーをはじめ、お客様を迎える職員の資質がより重要となってくる。
 365⽇営業を続けようとして、職員を確保する過程で質に⽬をつぶっている事業者はいないだろうか。⼈材とは⾔い難い、「⼈員」を集めることだけに躍起になってはいないだろうか。教育の⼿が届かない職員を配置し、365⽇の営業を続けていないだろうか。もしそのような事業者がいるとすれば、経営戦略の練り直しが必要となる。⼈材と⾔える従業員が常にサービス提供できる形へと、サービスの形態を変える考え⽅があってよい。
 これからの通所介護事業は、従業員の質を検証し直しながら、⾃分の法⼈では何⼈程度の従業員であれば、⼗分に教育が⾏き届くだけの“⼒量”を持っているのかを精査しつつ、営業⽇ごとの収益率を再計算して、費⽤対効果の⾯から営業⽇・営業⽇数の⾒直しにも着⼿しなければならない。
 少なくとも、従前からの営業⽇を「慣例」として漫然と続け、営業⽇を⾒直そうとする視点に⽋ける事業者は、「時代のニーズや社会情勢に合わせて変化できる事業者」とはなり得ず、“負け組予備軍”となっていかざるを得ない。少数精鋭の⼈材配置で、その範囲で営業する⽅が、効率的に収益を上げられる可能性は⾼まるのだ。
 ホテルや旅館業でも、毎⽇の営業をやめて、⼈材を配置できる⽇の営業に特化し、収益をアップさせ、従業員の年収を上げているところがあるが、通所介護事業も⼈材が少ない時代に合わせた⽅向に展開していく必要もあるのだ。
 そのように主張すると、「介護事業は社会福祉事業でもあるのだから、収益第⼀の考え⽅で営業⽇を減らすのは地域住⺠への裏切りであり、介護サービスという社会資源を減らすことに他ならない」と指摘する⼈がいる。
 だが、顧客に対するマナーも守れない⼈員を配置し、営業⽇を増やすことが社会福祉の精神に沿う営業形態だとでも⾔うのだろうか。教育の⼿の届かない従業員を抱え、⾝の丈以上のサービスを展開し、介護事業という名の下に、ひどい⼈権侵害を放置しているこの国の介護事業の実態を⾒ているのかと⾔いたい。
 そもそも地域住⺠の福祉の向上とは、質の⾼い介護サービスを提供することであり、「サービスの質はともかく、その量さえ確保しておればよい」という考え⽅は、介護事業を「施し」レベルに後退させ、⽀援という名の⽀配の構造を広げるだけだ。
 事業の経営状況を正確に把握しつつ、破綻しないように経営戦略も⾒直していくことが求められる。例えば営業⽇を増やすことで逆に収益率を悪化させ、継続が困難にならないよう、収益を上げられるように体質を改善することだ。事業経営視点のない、「幻の社会福祉論・介護経営論」など求められてはいない。
 今どき⾵船バレーがリハビリメニューの中⼼という事業者もないだろうが、「スマホを普通に使いこなす世代に対する⼼⾝活性化メニューとは」といった視点から、サービスメニューを考えられない事業者は消えてなくなるだろう。⼩学唱歌を歌わせている事業者は倒産してなくなったのだろうが、カラオケ中⼼の事業者の命脈も短いだろう。そもそも顧客意識に⽋けるサービスマナーのない職員に頼り切った経営では、もう持たない。親しみやすさを⽰すために、“タメ⼝”で話し掛ける必然性などないという、当たり前のことに気が付き、サービスマナーを基盤としたホスピタリティー意識を持った職員を配置し、サービスの質を⾼めていかないと、他事業者にのみ込まれていくしかない。この部分が変わらなければ「何ともならない」のである。
 利⽤者ニーズに対応したサービスメニューを常に⾒直しながら、ホスピタリティーの⾼いサービスを実現するため、営業⽇を絞って、少数精鋭のスタッフでサービスを提供するという戦略は、今後の通所介護経営を考える上では必要不可⽋な視点ではないだろうか。

菊地雅洋(きくち・まさひろ)
1960年、北海道下川町⽣まれ。北星学園⼤学⽂学部社会福祉学科を卒業し、社会福祉⼠、介護⽀援専⾨員など多数の資格を保有。北海道介護福祉道場 あかい花代表を務める。介護業界屈指の論客としても知られ、⾃⾝が管理するBBS「介護福祉情報掲⽰板」(表板)、ブログ「masaの介護福祉情報裏板」などを通じて現場からの情報発信を続けている。主な著書に「介護の詩(うた)〜明⽇へつなぐ⾔葉」、「⼈を語らずして介護を語るな THE FINAL〜誰かの⾚い花になるために」(いずれもヒューマン・ヘルス・システム社)、「介護の誇り」(⽇総研出版)

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