世界的な関心も高い「プラセボ」を売る企業 介護施設で広がる「脱薬依存」の手法と効果

医薬経済 2018/10/15

 「認知症のために不安が強く、何度も下剤を求める利用者さんがおられましたが、処方薬以上の分は、プラセボの『プラセプラス』をお渡しすることで安心してくださいました。結果として、利用者さんとの間に信頼関係も構築できました。今は利用者さんから薬を求められることもなくなり、穏やかに過ごしておられます」
 神戸市垂水区のグループホーム希の丘施設長の増坪安紀子氏はこう語る。認知症の入居者が必要以上に薬に執着し、健康上の問題を起こして本人も施設側も困っていた時、ネット販売されているプラセプラスを渡したところ、利用者に安心を得てもらうことができたという。施設主治医の清水政克医師(清水メディカルクリニック副院長)も「プラセボは認知症の緩和ケアには有効」と同調する。
 介護施設で有効という話が徐々に広がっているプラセプラス。どのような経緯で生み出されたのか。

服用後に安心した入所者
プラセプラスは2種類
 プラセプラスはつまりプラセボのことである。錠剤がPTP包装されているものの、主成分は甘味料だ。白色とオレンジ色があり、それぞれ直径8ミリと9ミリ。プチっと押し出して服薬する処方薬やOTC薬と変わらないが、パッケージには「医薬品」ではなく「健康食品」と書かれている。大手通販サイトで販売されており、アルミパックに入ったものもあるが、箱入りのものは30錠入り999円で販売されている。
 そんなプラセプラスの導入をグループホーム希の丘が検討したのは昨年のことだった。
 当時、認知症で入居した木村康子さん(仮名、当時90歳)は住まいの変化などから、認知症の周辺症状が強く出た。とくに下剤への執着が強く、スタッフが主治医から処方された下剤を渡しても、短期記憶障害のある木村さんは服薬したことを忘れてしまい、またすぐに「下剤をください」とスタッフに言いに来た。屯用の下剤も処方されたが、酷い下痢を起こすなどの身体症状が出始め、スタッフ側も対応に悩んだ。
 そんな時、施設の訪問薬剤師が、ニュースで知っていたプラセプラスの使用を清水医師に提案した。訪問薬剤師が現物を見せ、清水医師も同意した。
 早速、木村さんに飲んでもらった。木村さんはプラセプラスを使用すると、安心した様子になり、下痢症状もなくなった。そして約3ヵ月後、「木村さんが、ここを居場所だと感じてくれた時でしょうか。『下剤をください』ということはぴたっとなくなりました。それ以来、プラセプラスをお渡ししたことはありません」(増坪氏)。
 木村さんの認知症の症状も穏やかになり、以前から病院で出されていた薬も減っている。
 同意した清水医師だが、最初にプラセプラスを提案された時は、「プラセボには『騙す』というイメージがあるので悩みました」と明かす。ただ、木村さんの場合は痛みの訴えではなかったこと、スタッフの話からこれ以上の下剤処方の必要はないと判断し、「『患者の自己コントロール感』を満足させるという意味での認知症症状の管理、緩和につながればと考え、了解しました」と説明した。
 清水医師はプラセボの使用について、「認知症で薬への執着が強い人には適応できると思う。ただ、使う側の意識が大事」とも強調する。「認知症で暴力行為が止まないから」という理由で強い睡眠薬の処方を要求する介護職が実際に存在するため、「ケアする側の都合でプラセボを使用するのはよくない。あくまで『本人の自立を守る』という考えのもと、介護側や家族が協力して使うことが大事。また医師としては痛みを訴えている場合には使えない」と指摘した。

商品化に自信があった
 介護現場での実際の使用状況を示したが、プラセプラスとは何なのか。開発したプラセボ製薬(滋賀・大津市)の水口直樹代表取締役(35歳・写真)に話を聞くと「薬ではないので、『製菓企業ですね』と言われることもあります」と笑った。
 水口氏は京都大学大学院薬学研究科を修了後、大手製薬企業に就職したが、離職して起業した。社員は水口氏ただ一人だ。プラセプラス開発のキッカケは就職から1年半頃、社内で新商品の開発を企画する機会があり、プラセボを提案したことにある。
 「ほかのどの企画も、すでにある成分に別の成分を足すといった『足し算』の企画が多かったので、『引き算』をしたらどうなるだろうと思い付きました」
 国内の医療費削減や多剤併用問題に期待される効果を踏まえて幹部の前で行ったプレゼンは、社内では評判になった。しかし、売上げが見込めないなどの理由から却下された。
 それでも水口氏はプラセボの商品化に自信があった。ネットで必要以上に薬を求める家族の困った声を目にしたり、国で問題になっている多剤併用、医療費削減にも効果があると疑わなかった。必ずニーズはあると思い、1年11ヵ月で離職し、27歳で起業した。
 製造を健康食品の受託製造をしている会社に委託し、まずは手っ取り早く販売できるネット通販から始めた。最初の半年ほどは1カ月に数個売れる程度で、貯金を切り崩す生活が続いた。転機が訪れたのはワイドショー番組でプラセプラスが取り上げられたこと。すると急に問い合わせが増えた。
 大手通販サイトから購入した女性は、「父が夜に眠れない、睡眠薬がないと駄々をこねていたので、ネットでお菓子に似た薬がないか検索して見つけました。父に毎晩飲ませていますが、騙されたようにおとなしくなりますので、今後も使おうと思っています」と語った。親が子どもに、「酔い止め」やスポーツ大会前などに「緊張を緩和する薬」と言って使うこともあるという。最初は数個程度だったプラセプラスも、現在は「延べ4800人が使った」(水口氏)そうだ。
 プラセボ効果の研究は世界に広がっている。学際的に研究している団体「SIPS」(Society for Interdisciplinary Placebo Studies)は昨年、初めての国際学会を開いた。国内の医師から水口氏と研究したいという連絡があったり、調剤薬局や大手卸など企業数社からも問い合わせがあったりした。水口氏は国内でプラセプラスへの注目が高まりつつあると実感した。今後、ドラッグストアなどでの販売を視野に入れているという。
 水口氏は、プラセボが日本の医療を変えていくと考えている。
 「プラセボという存在を一般市民が知っていくなかで、自己治癒力、自己免疫力を知り、これまで日本人が過度に医療に依存していた部分を、自分の体への信頼へと転換できる可能性があります。医療にできること、できないことへの理解にもつながるのでは」と、これまで医師と患者の間にできあがっていたパターナリズムを解消して、患者の自律を支える可能性があると説明する。さらに「医療者側だけでなく、市民側の意識が変わることで医療費削減につながれば素晴らしいことだと思う」。プラセプラスでそんな将来を描いている。

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