胃管挿入時の位置確認、「気泡音の聴取」では不確実—医療安全調査機構の提言(6)

MedWatch 2018年10月9日

 胃管の誤挿入などによる死亡事例が、これまでに6例報告されている。まず、高齢者や意思疎通困難、身体変形などのある患者では「誤挿入のリスクが高い」ことを院内で認識する必要がある。さらに、胃管の位置確認を行うに当たり「気泡音の聴取」は不確実な方法であることを再認識し、▼X線▼pH測定—を含めた複数の方法で位置を確認し、さらに「初回は、日中に少量の水を投与する」のみにとどめることなどが求められる―。
 日本で唯一の医療事故調査・支援センター(以下、センター)である日本医療安全調査機構は9月25日、6回目の「医療事故の再発防止に向けた提言」として『栄養剤投与目的に行われた胃管挿入に係る死亡事例の分析』を公表し、このような注意喚起を行いました(機構のサイトはこちら)。

2015年10月以降、胃管の誤挿入に係る死亡事例が6例報告
 2015年10月から、医療機関の管理者に「予期しなかった『医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産』」のすべてをセンターに報告することが義務付けられています(医療事故調査制度)。「医療事故の再発防止」を目的とした制度で、事故事例を集積・分析し、具体的な「再発防止策」などを構築することがセンターに課せられた重要な役割の1つです(関連記事はこちら)。
 医療事故調査制度の概要、「院内調査」を第一に行い、「医療事故調査・支援センター」がそれを補完する格好で調査が行われ、再発防止策に結びつける
 
センターは、今般、「栄養剤投与目的に行われた胃管挿入」に係る死亡事例を分析し、6回目の医療事故再発防止策として提言を行いました(過去の提言に関するする記事はこちら(1:中心静脈穿刺)とこちら(2:急性肺血栓塞栓症)とこちら(3:アナフィラキシーショック)とこちら(4:気管切開術後)とこちらこちら(5:腹腔鏡下胆嚢摘出術))。
 胃管を用いた経鼻経管栄養は、経腸栄養の中でも侵襲が少なく、かつ簡便に行うことができることから最も普及しています。しかし、▼気管に誤挿入してしまうケース▼消化管や気管を突き破り腹腔内や胸腔内などに挿入されてしまうケース―があり、かつ「相当量の水・栄養剤が投与」され、窒息、重篤な肺炎、腹膜炎、胸膜炎などを起こし、死に至る場合もあります。これまでにセンターに報告された死亡事例(6例)も、こうしたケースに該当します。

センターでは、再発防止に向けて次の6つの提言を行っています。
(1)胃管挿入において、▼嚥下障害▼意思疎通困難▼身体変形▼挿入困難歴—などがある患者は「誤挿入のリスクが高い」ことを認識する【胃管挿入のリスク】
(2)誤挿入のリスクが高い患者や挿入に難渋する患者では、可能な限り▼X線透視▼喉頭鏡▼喉頭内視鏡—で観察しながら実施する【胃管挿入手技】
(3)気泡音の聴取は胃内に挿入されていることを確認する確実な方法ではない。胃管挿入時の位置確認は、X線やpH測定を含めた複数の方法で行う。特にスタイレット付きの胃管を使用するなど穿孔リスクの高い手技を行った場合は、X線造影で胃管の先端位置を確認することが望ましい【胃管挿入時の位置確認】
(4)胃管挿入後は重篤な合併症を回避するため、初回は日中に水(50-100mL程度)を投与する【胃管挿入後の初回投与】
(5)投与開始以降は誤挿入を早期発見するため、▼頻呼吸・咳嗽など呼吸状態の変化▼分泌物の増加▼呼吸音の変化▼SpO2低下—などを観察する。特に誤挿入のリスクが高い患者ではSpO2モニタリングを行うことが望ましい【水の投与以降の観察】
(6)胃管挿入は重篤な合併症を起こしうる手技であるということを周知し、栄養状態や胃管の適応に関する定期的評価、胃管挿入に関する具体的な方法について、院内の取り決めを策定する【院内体制・教育】
 
 まず(1)では、▼高齢者や脳神経系疾患がある患者では咽頭・喉頭・気管などの知覚が低下し、嚥下反射や気道防御の咳嗽反射が減弱・消失している▼意識障害や重度認知症のある患者は、意思疎通が困難なため、胃管挿入時に嚥下を促すといった協力を得ることが難しい―ため、誤挿入を起こしやすく、かつ「医療従事者が誤挿入を察知することも難しい」ことを十分に認識する必要があると強調しています。
 胃管挿入することになった際は、患者の▼嚥下障害▼意思疎通困難▼身体変形▼咳嗽反射—の有無や、胃管挿入に要した回数・時間などの情報を共有し、チームで評価することが必要と言えます。 
 また(2)では、胃管挿入に特に難渋し、▼X線透視▼喉頭鏡▼喉頭内視鏡—で観察しながらの胃管挿入が困難な医療機関では、「設備を有する医療機関への受診や転院」「胃瘻造設の早期検討」が必要であると指摘。

さらに、「夜間などに、薬剤投与目的で、やむを得ず看護師のみで胃管を挿入する場合」には、「吸引した胃内容物のpH測定を含む複数の方法、かつ複数の看護師で確認し、最少量の水を使用して薬剤のみ投与する」「薬剤投与後に期待した薬効が得られない場合などは、誤挿入の可能性を考え、胃管の使用を中止し、速やかに医師に報告する」ことが求められます。
 なお、患者の協力が得られる場合には「嚥下しやすい体位である坐位での実施」が望ましいものの、「坐位保持が困難で、容易に頸部後屈する患者では、かえって誤挿入の危険を増す」点にも留意が必要です。
 一方、(3)では、6例中5例で、広く実施されている「気泡音の聴取」で胃内に胃管が挿入されていると判断していました。しかし、この手法については、以前から「不確実である」と繰り返し指摘されています(医療機能評価機構の実施する「医療事故情報収集等事業 第43回報告書」では、胃管の誤挿入56例中40例で「気泡音の聴取」による胃内挿入確認が行われていた)。
 そこで、「気泡音が聴取されても胃内に挿入されているとは限らない」ことを再認識し、▼X線による位置確認▼胃内容物の吸引およびpH測定による位置確認—などの各手法を組み合わせて位置確認を行うことが求められます。

さらに、(4)では、「嚥下障害などの有無」「胃管挿入が容易であったか」「紹介は少量の水のみの投与」によって誤挿入のリスクを判断し、栄養剤投与を行うか否かを慎重に判断するよう求めています。 
 ほかにセンターでは、医学会や医療関連企業に対し、▼胃管挿入におけるpH測定の周知およびpH測定の有用性に関するエビデンス構築▼胃管の誤挿入に関する医療安全情報の普及啓発▼先端技術の応用(例えば極細内視鏡をスタイレット代わりに使用し、かつ胃管の先端を視認することも可能となるような技術)—を行うことも要望しています。

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