外来・在宅、慢性期医療、介護保険施設の各特性に応じた「高齢者の医薬品適正性」確保を―高齢者医薬品適正使用検討会

MedWatch 2018年9月27日

 今年度末(2019年3月)に向けて、▼外来・在宅医療▼回復期・慢性期等入院医療▼介護保険施設―といった療養環境の特性に応じた「高齢者に対する医薬品の適正使用を進めるための指針」を、詳細に検討していく。そこでは、急性期入院医療における専門医との連携や、患者・家族が「人生の最終段階でどのような医療を受けたい」と希望しているか、などについて詳しく示す—。
 9月26日に開催された「高齢者医薬品適正使用検討会」(以下、検討会)で、こういった方向が了承されました(関連記事はこちら)。
 下部組織である「高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ」(以下、ワーキング)で年末年始にかけて詳細案を練り、年明け以降、検討会で詰めの議論を行うことになる見込みです。
 
とくに外来では、訪問を行う看護師や介護士と連携し、高齢者の状態把握が重要
 高齢になると、▼細胞内水分の減少▼血清アルブミンの低下▼肝血流や肝細胞機能の低下▼腎血流の低下―といった生理機能の低下が生じます。その一方で、薬物吸収能には大きな変化がないことから、「医薬品が効き過ぎる」ことがあります。
 他方で、高齢になると複数の傷病を抱えることが多く、各疾病を治療するために「多剤投与」が行われがちです。この多剤投与の中でも害を伴うもの(ポリファーマシー)が問題視され、さまざまな対策が図られています。
 検討会では、この一環として、医薬品の処方を行う医師・歯科医師、調剤を行う薬剤師を主なターゲットとした「高齢者の医薬品適正使用の指針」(ガイダンス)作成に向けた議論を昨年(2017年)4月に開始しました。今年(2018年)5月には、指針の【総論編】がまとめられ、そこでは、▼高齢者の状態▼治療の必要性▼薬剤処方内容―などを総合的に勘案し、医師・薬剤・看護師等が協働して「医薬品処方の適正性」を常に評価し、必要があれば減薬や中止などの見直しを行うことを提言しました(厚労省のサイトはこちら)(関連記事はこちら)。
 総論編では、高齢者の「医薬品処方の適正性」確保に向けた基本的考え方、具体的な対応方針を示していますが、地域医療連携や在宅医療等が推進される中では「療養環境の特性」に応じた指針の必要性も高まっています。そこで検討会では、▼外来・在宅医療▼回復期・慢性期等入院医療▼介護保険施設―といった療養環境の特性に応じた「高齢者に対する医薬本処方の適正性」を確保するための指針の作成に向けた検討が継続されています(急性期入院医療については【総論編】でカバーしている)。
 9月26日の検討会には、ワーキングで検討されてきた骨子案をベースに議論。その内容について概ね了承しました。具体的には、次のような内容が指針に盛り込まれることになります。

【外来・在宅医療】(医師が常駐していない特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅などを含む)
(1)入院から在宅に復帰し、外来医療・在宅医療に移行するに当たって、▼入院医療機関の専門医との協議・連携(どうしても専門医の処方に縛られがちである)▼多職種からの情報収集▼処方見直しプロセス▼急性増悪時の入院医療機関(地域包括ケア病棟)や介護関係者との「留意点」の共有―
(2)処方内容を検討する際には、▼非薬物的対応の重要性確認▼ポリファーマシーに関連する問題の評価時の留意点▼処方の優先順位と減量・中止―などを行う
(3)多職種の役割、チームの形成(例えば「お薬手帳」を活用した連携など)

【回復期・慢性期等入院医療】
(1)急性期から回復期・慢性期に移行するに当たって、▼急性期の専門医との連携・協議▼多職種からの情報収集▼処方見直しプロセス▼退院に向けた「地域のかかりつけ医や薬剤」との連携―
(2)処方内容を検討する際の留意点
(3)多職種の役割、チームの形成

【介護保険施設】(医師が常駐する介護医療院、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)
(1)たとえば、▼入所前に「かかりつけ医」と連携し、処方見直しに当たっての留意点などを情報共有する▼退所後に「かかりつけ」となる医師や薬剤師への情報引き継ぎ―などに留意する」
(2)処方内容を検討する際の留意点
(3)多職種の役割、チームの形成

 いずれの療養環境でも、「専門医との連携」などが重要になることは当然で、同じ構成となりますが、例えば【外来】では、患者の療養環境が必ずしも十分に把握できないため、「訪問」を実施している看護師や介護士等との連携が極めて重要になります。この点、木村琢磨参考人(北里大学医学部新世紀医療開発センター「地域総合医療学」准教授)は、「訪問を行っている複数の職種(まさに多職種)と情報連携することが重要である。例えば訪問介護を行っているヘルパーなどは、医師よりも早く、患者の認知機能や嚥下機能の低下に気づいていることが多い。そうした情報を吸い上げる取り組みが、処方内容の適正化に向けて極めて重要である」と指摘しています。
 また、大分県臼杵市では、医師会が15年前から診療情報連携システム(うすき石仏ネット)を立ち上げ、今では歯科医師会や薬剤師会、さらに行政などもこれに参加し、患者情報を共有しています。このシステムを活用することで、「患者Xについて、どのような既往歴があって、どのような治療を受けたのか。また、いつ、どのような医薬品を、どの程度の量、処方されたのか。どのような検査を何回受けているのか」などの情報を医療機関、薬局が把握でき、処方内容の適正性確保に大きく貢献しています。今後は、災害時の「医薬品処方」についても活用する構想などが検討されます。
 とくに外来においては、高齢患者は複数の医療機関にかかることが多く、「多剤投与」「重複投与」が生じがちです。この点、かかりつけの薬剤師・薬局から処方内容について疑義照会がなされることが期待されますが、医師との関係性によって、それが難しい場合があることも事実です。この点、臼杵市のようなシステムが構築されれば、処方医自らが「重複」等を把握することができます。厚生労働省では、「患者がどのような疾病に罹患し、それに対しどのような医療を提供したか、さらに介護が必要な状態となった場合に、どういったサービスを提供し、どのような効果が得られたのか」といったデータを一元的に集約し、医療・介護等の質向上を目指す「全国保健医療情報ネットワーク」を2020年度に本格稼働させる予定ですが、将来は臼杵市のような「リアルタイムの情報共有」も可能となることに期待したいところです。
 また介護施設や在宅医療においては、患者が「人生の最終段階」を迎えているケースも少なくないでしょう。このため、厚労省は「自分が人生の最終段階にどういった医療・ケアを受けたいかを繰り返し、医療従事者や家族・友人と話し合う『ACP』(Advanced Care Planning)」の視点も踏まえた薬物治療の在り方を指針に盛り込む考えです。
 こうした骨子案に異論は出ず、今後、ワーキングで具体的な内容を議論してくことになります。この点、城守国斗構成員(日本医師会常任理事)は、「必要な薬物治療が阻害されてはいけない。国民に『多剤=悪』との誤った印象を与えないように留意する必要がる」と強調。印南一路座長(慶応義塾大学総合政策学部教授)も、この指摘に同意し「目的などに明記する」考えを示しています。
 なお、検討会では、「療養環境の特性に応じた指針」について【追補】という名称を考えていましたが、伴信太郎構成員(日本プライマリ・ケア連合学会理事長)や美原盤構成員(全日本病院協会副会長)らから、【療養環境編】【各論編】などの名称候補も示されました。これを受け、厚労省医薬・生活衛生局医薬安全対策課の関野秀人課長は、「今後、より分かりやすい名称を模索していく」考えを示しています。

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