高齢者の保健事業と介護予防の一体化に向け、法制度・実務面の議論スタート―保健事業・介護予防一体的実施有識者会議

MedWatch 2018年9月11日

 高齢者の保健事業と介護予防事業を一体的に実施することで、健康寿命の延伸を目指す―。
 厚生労働省は、9月6日に「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」(以下、有識者会議)の初会合を開き、法制度の整備、実務的な課題の解決に向けた具体的な検討を開始しました。11月下旬までに取りまとめを行います(関連記事はこちらとこちら)。
9月6日に開催された、「第1回 高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施に関する有識者会議」
 
「通いの場」への参加すらしない、無関心層にどう働きかけるか
 2025年には、いわゆる団塊の世代がすべて後期高齢者となるため、今後、医療・介護ニーズが急速に増加していきます。その後、2040年にかけて高齢者人口の増加は続くものの、伸び率は鈍化し、併せて生産年齢人口が急激に減少していくため、公的医療保険を初めとする社会保障の存立基盤が極めて脆くなっていきます。
 そうした中では、医療保険制度において「負担の公平性」や「診療報酬の在り方」などを検討していくことはもちろん、「医療費の伸びをいかに、我々国民で負担できる水準に抑えるか」(医療費適正化)というテーマが非常に重要になります(関連記事はこちらとこちら)。厚労省の研究では、「健康寿命が長い都道府県では、後期高齢者の1人当たり医療費が低い」ことなども明らかとなっており、医療費適正化の一環として「健康寿命の延伸」がクローズアップされています。
2040年に向けた、社会保障改革の柱その1(健康寿命を延伸することで、医療費等の伸びを抑える)

 「健康寿命の延伸」に関しては、例えば健康保険(健保組合や協会けんぽ)・国民健康保険では「生活習慣病対策」として、特定健診(いわゆるメタボ健診)・特定保健指導を40歳以上の加入者を対象に実施。また75歳以上の後期高齢者が加入する後期高齢者医療制度では「フレイル対策」(虚弱対策)を推進。一方、介護保険制度では、保険者である市町村が「介護予防」に取り組むこととされています。もちろん、それぞれに効果は上がっているものの、実施主体が異なることから、▼フレイル対策を実施する後期高齢者医療広域連合(いわば後期高齢者医療制度の保険者)は限定的(国庫補助が行われるが、努力義務である)▼後期高齢者医療広域連合では、保健師や管理栄養士などの専門職配置には限界がある(保健師配置は44.7%だが、看護師配置は6.4%、管理栄養士配置は2.1%(1広域連合のみ)にとどまる)▼介護予防に取り組み各市町村で進んでいるが、引きこもりがちな高齢者・無関心な高齢者も多く、参加率は低い(2016年度には4.2%、ただし年々上昇している)—といった課題も指摘されています。一方で、すでにこれらを一体的に実施している自治体もあります(例えば、静岡県の川根本町、森町、袋井市など)。
後期高齢者医療広域連合の実施するフレイル対策(左欄)と、市町村の実施する介護予防(右欄)との違い(制度概要)

静岡県における「保健事業」と「介護予防」の連携(その1)
静岡県における「保健事業」と「介護予防」の連携(その2)
 そこで厚労省は、「高齢者の保健事業と介護予防を一体的に実施する」仕組みを構築してはどうかと提案し、有識者会議で法制度面・実務面の検討を行うこととなったのです。
 一体的実施の具体的な枠組みはこれから議論されますが、例えば、主に市町村が運営する介護予防事業における「通いの場」(現在は集団指導が中心)に、地域の高齢者が積極的に参加し、そこで個別高齢者に対するフレイル(虚弱)や低栄養などのチェックを行い、個別的な栄養指導や医療機関の受診勧奨などにつなげることなどが考えられます。

高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施・推進イメージ
 この点、9月6日の初会合では、「通いの場」への高齢者参集に向けて、いわゆる無関心層にどうアピールしていくかが重要という意見が多数出されました。例えば、津島一代構成員(あいち健康の森健康科学総合センターセンター長)は、「通いの場に、来ることすらできない高齢者に対し、保健師や看護師、栄養士などの専門職がアウトリーチ(例えば訪問)する」ような仕組みが重要と提案しています。
この点、近藤克則構成員(千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門教授)は、「市町村によっては、通いの場への参加者名簿すら作成できていないところ(当然、参加していない高齢者の把握もできていない)、名簿があっても紙ベースで、電子化されていないところも少なくない」ことを指摘。保健事業と介護予防事業との一体的実施の枠組みを作成した後の「運用面」も十分に検討する必要があるでしょう。
 ところで、厚労省の調べによれば、「通いの場」は、2016年度時点で全国に7万6492か所が設置され、そこに参加している65歳以上の高齢者は143万9910人。65歳以上高齢者の4.2%が参加している計算となります。しかし、近藤構成員は、都市部では、例えばカラオケルームやスポーツジムなどに高齢者が集い、実質的に「通いの場」の機能を果たしているケースが少なくないことに言及し、「都市部では民間サービスの活用が重要になり、そこにどういったインセンティブがつけられるかも検討すべきではないか」とも提案しています。
 一方、飯島勝矢構成員(東京大学高齢社会総合研究機構教授、日本老年医学会理事)は、「通いの場においては、栄養や歩行の重要性などを説いているが、それらは現在では『当たり前』のこととなっており、参加される高齢者には新鮮味がない。『なるほど』と思えるような情報提供をすることが参加率向上に向けて重要になるではないか」と指摘しています。
 さらに城守国斗構成員(日本医師会常任理事)は、「フレイル対策の効果などに関する科学的データの整備も必要」と強調しています。今後、例えばKDB(国保データベース、国民健康保険団体連合会の保有する健診・医療・介護データを格納)を活用して、エビデンスを確立していくことなども考えられそうです。
 もっとも、こうした指摘には頷ける部分がもちろん大きいのですが、市町村によっては実施に向けたハードルが高いところもあるでしょう。特にKDBの活用などには、相当の知識・スキルが必要であり、直ちに全市町村に実施を求めることは難しそうです。厚労省では「通いの場で何が実施可能で、何が難しいのか、慎重に検討していく必要がある」と述べるにとどめています。
 ところで、前述のように、保健事業と介護予防事業の一体的実施を行うにあたり、住民に最も身近な自治体である「市町村」が主体となる、という大きな方向は確認されていますが、どういった仕組みとするかは、これからの議論となります。例えば、▼フレイ不対策の根拠法となる高齢者医療確保法や、介護予防事業の根拠法となる介護保険法を改正し、「両者を一体的に実施する」規定を整備するのか▼「フレイル事業」の実施について、後期高齢者医療広域連合から市町村への委託をより進めやすくするような運用上の工夫にとどめるのか―など、一体的実施の「実」を確保する方法はさまざまで、今後の有識者会議での検討に注目が集まります。
 なお、前述した「KDBの活用」などを進めるとなれば、法制度面の整備が必須となりそうです。KDBへのデータ格納では、NDB(National Data Base)や介護DB(介護保険総合データベース)と異なり、個人の匿名化がなされていません。このため、そのデータを安易に活用することはできないのです(個人情報保護法に抵触する)。この点、「一体的実施にKDBのデータを活用する」旨が法律で整備されれば、個人情報保護法への抵触はなくなり、より有効な一体的実施が推進可能となるでしょう。こうした面からも、一体的実施の枠組みに関する検討が重要となります。

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