給与伸びず健保「脱退」の本末転倒「小売業」生協が投げかけた政府の経済無策

医薬経済 2018/8/15

「日生協健保、お前もか!」なんて声が聞こえそうだ。全国の生協(コープ)の従業員10万3000人とその家族合わせて16万3000人が加入する「日生協健康保険組合」が今年度いっぱいで解散し、来年4月から中小企業向けの「協会けんぽ」に移行することを決めた。「後期高齢者支援金」の負担が重く、保険料を上げてきたが、保険料率が協会けんぽの10%を上回る10.7%(労使折半)に達し、最早、耐えきれなくなった、というのが移行の理由だ。
 ちょうど10年前、5万7000人が加入する西濃運輸健保組合が協会けんぽに移行して話題になったが、16万人を超える日生協健保組合の協会けんぽへの移行は、それを上回る大型移行である。
 折も折、民間の健保組合(組合健保)1389組合が集まる健康保険組合連合会は「後期高齢者支援金などの義務的経費が重く、保険料率が10%以上の健保組合は313組合に上る」と発表したばかりだ。実は、日生協健保組合に続いて、派遣社員48万6000人が加入する「人材派遣健康保険組合」も協会けんぽへの移行を検討中。組合健保がこぞって協会けんぽに移行しそうなのである。

手は打ってきたが限界
「苦渋の選択です」と日生協健保組合の神田弘二常務理事は言う。
「加入者は増えていますが、組合加入者の給与が伸びないんです。健保組合全体の平均給与は月36万円ですが、うちは29万円。協会けんぽ加入者の平均給与28万円とほぼ同じです。しかも協会けんぽの平均給与は増加していますが、小売業である生協の給与は今後も伸びそうもない」
 輸出企業や建設業は儲かっても、小売業は消費低迷で泣いているらしい。日生協健保組合の保険料率が協会けんぽを超えたのは10.3%に引き上げた5年前。以後、契約保養所との契約をやめたり、健康づくり運動に励むなど経費削減に努め、10.3%を維持してきたが、ついに昨年度10.7%に引き上げたという。
「しかし、これから団塊の世代全員が後期高齢者に進み、さらに負担増が見込まれる。今後、保険料率をさらに上げざるを得なくなる。一方、協会けんぽは今後5年間、保険料率を平均10%で維持できるということですから、移行することを決めました」(神田理事)
 10.7%に引き上げた昨年7月に限界を感じたらしい。小委員会を設け、検討を重ねた結果、「協会けんぽへ移行するしかない」という答申を受けたそうで、理事会、各事業所が集まる組合会で討議。この7月に組合会で4分の3以上が「やむなし」と移行を認める決定をしたという。
 日本生協連(日本生活協同組合連合会)は宅配を中心にした地域生協や職場の生協、大学生協、医療福祉生協などからなる組織で、日生協健保組合は各生協の従業員が加入する健康保険組合である。2900万人の組合員を擁する本業の生協事業はネット通販の影響を受けないそうで、総売上げ(総事業高)は3.5兆円を維持しているが、従業員が加入する健保組合は別。パートで成り立つスーパーと違い、短時間労働の従業員も加入しているため従業員の給与は上がらず、高齢者支援負担が重く、健保事業は苦境に陥ったそうだ。
 もちろん、協会けんぽの保険料率は地域の医療費に基づいて算出するため都道府県で異なる。18年度の保険料率で最も低い新潟県の9.63%から最も高い佐賀県の10.61%まである。10%を超える地域は半数の24道府県にも上るが、それでも平均すると10%。日生協健保から協会けんぽへ移行すると、加入者の健康保険料が安くなる。
 もっとも、組合健保には協会けんぽにはない保養施設を持っていたり、保険事業への補助金支給など付加給付があったりする。例えば、保険事業ではインフルエンザ予防接種では加入者に2000円程度の補助金が出るし、高額療養費制度も厚くなっている。協会けんぽへの移行は加入者にとってマイナスにならないのか。
「日生協健保には付加給付はないし、保養所も持っていない。代わりに契約保養所がありましたが、すでに契約をやめ、削れるものは削ってきている。残っているのは乳がん検診や脳ドックなどを含めた検診やインフルエンザの予防接種への援助といった健康づくり事業だけです。が、協会けんぽも同じような健康づくりを行っていますから移行しても大差はないものばかりです」(神田理事)
 実は、後期高齢者医療制度が始まった直後には多くの組合健保が協会けんぽに駆け込み移行した。日生協健保組合に続いて人材派遣健保組合が協会けんぽに移行すると、組合健保から駆け込み移行が急増しそうだ。組合健保は成り立たなくなりつつあるのか。
 健保連は4月、「赤字の健保組合は1389組合の6割を超える866組合で、保険料率が協会けんぽの10%以上の組合は313組合に上る」と発表、組合健保の財政が危機的状態にあることを訴えている。早速、メディアは「協会けんぽへの移行予備軍が300組合もある」とセンセーショナルに報じている。
 ある組合健保の幹部が指摘する。
「組合健保と協会けんぽとの違いには組合健保は余剰金を積み立てられることがある。組合健保の6割が赤字を出しながら、それでも組合健保に踏みとどまっていられるのは、経済成長期に貯め込んだ積立があるからです」
 だが、逆に言えば、積立金を使い果たしたとき、協会けんぽに雪崩れ込むことになるのかもしれない。協会けんぽはかつて政府管掌健康保険と呼ばれ、国が運営していたが、08年に全国健康保険協会が運営することになった健康保険だ。独自に組合健保をつくれない中小企業向けで、加入者の給与が大企業中心の組合健保加入者より低いため、年間医療費の16.4%に当たる1兆1745億円を国庫補助している。日生協健保組合が協会けんぽに移行すると、国は協会けんぽに20数億円の助成追加が必要になる。
 それはともかく、組合健保の苦境の最大の原因にはいうまでもなく少子高齢化がある。25年には団塊の世代全員が後期高齢者に達し、さらに、その後35年まで後期高齢者が増加すると見られている。08年に始まった後期高齢者医療制度では必要な医療費の5割を国が拠出し、1割を被保険者が負担。残る4割を健康保険組合などが「後期高齢者支援金」として負担している。この8月から被保険者負担が収入に応じた負担に改善したが、増大する高齢者医療費に充当する程度に過ぎない。
 実は、加入者が最も多い協会けんぽは金額では最大の後期高齢者支援金を支出している。ひょっとすると、将来、協会けんぽも高齢者支援に耐えきれなくなるのではないかと不安にもなる。経済成長していれば給与が上がり、何の問題もないが、給料が上がらないため組合健保の〝健康度〟の悪化が止まらないのだ。
 ある私大の経済学部教授が言う。
「超低金利と財政出動に頼るアベノミクスでは大企業の景気は回復したが、GDPは増えません。むしろ、長期にわたる副作用が出ている。民間の組合健保が解散するようでは本末転倒です。来年に予定している消費税増税分を投入するくらいの覚悟が必要でしょう」
 これという妙薬はないようだ。

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