在宅医療拠点の整備に遅れ 4分の1の市町村でゼロ 入院費の抑制進まず

日経新聞 2018年8月5日

 医療費の抑制に向け、政府が進める在宅医療の体制整備が遅れている。全国の4分の1にあたる452市町村で医師らを派遣する中核施設がなく、人口あたりの施設数は都道府県の間で最大4倍の格差がある。入院せずに自宅で過ごす在宅医療は患者のニーズも大きい。空白を埋めるには、一般の医療機関との連携といった運用面の対策を進める必要がある。
 日本の医療は平均在院日数が約30日に達し、英国の7日や独仏の9~10日と大きな差がある。人口千人あたりのベッド数も米英の4倍を超え、医療費のうち4割近くは入院にかかる。政府は入院患者を在宅に移すことを医療費を抑える施策の一つに位置づけている。
 在宅医療では、病気になって通院するのが難しい人が入院せずに自宅で医師の治療を受ける。政府は医師や看護師が24時間体制で往診や連絡をできる施設の整備を促しており、最新の資料で2016年3月末時点の状況を調べた。
 在宅療養支援病院や在宅療養支援診療所と呼ぶ在宅医療の中核を担う施設が1カ所もないのは452市町村。医師や看護師を確保するのが難しいためだ。特に移動に時間がかかる広い自治体は採算が取りにくい。北海道は6割にあたる108市町村が空白地で、東北でも整備の遅れが目立つ。
 千葉県でも銚子市など14の市町村で施設が存在しない。都市部でも医師が高齢化している地域は多く、夜間に往診するだけのスタッフがいない。都道府県別に見ると、65歳以上の人口10万人あたりの施設数が最も多いのは大阪の82.5カ所。東北各県は福島県を除くと、大阪の3分の1から4分の1程度だ。
 同じような症状の治療で医療費を比べると、在宅は入院の3分の1にとどまるとの調査もある。日本では人生の終末期を自宅などで送りたいという人が6割にのぼる。患者の生活の質(QOL)への観点でも、在宅医療のニーズは高い。
 ただ、中核施設は設置の要件が多い。足元の状況を調べると、千葉県は18年6月時点で依然として14の自治体が空白。北海道も18年4月時点で105市町村が空白で、2年前からわずかに減ったにすぎない。
 施設を急に増やすことは難しいが、政府も運用の改善に動き出している。厚労省は18年度の診療報酬改定で、通常の診療所が他の医療機関と連携して24時間の往診・連絡体制を構築した場合、報酬を加算する仕組みを新設した。在宅医療の担い手を広げる狙いがある。
 ニッセイ基礎研究所の三原岳准主任研究員は「訪問看護師や地域の医師会などと連携し、既存の体制をうまく使う体制整備が必要になる」と指摘している。
 政府は団塊の世代の全員が後期高齢者入りする25年に向けて入院医療の改革を進めている。在宅医療の推進や重症患者向けの病院ベッドの削減により、25年の病床数を足元から5万~6万床ほど減らし、約119万床まで抑制する計画だ。
 一方で在宅医療や介護施設には30万人規模の需要が追加で発生する見込みだ。10万人あたりの施設数が全国で最も多い大阪府でも「訪問診療を実施する医療機関の増加が必要」としており、在宅医療の担い手は全国的に不足している。
 政府の試算では、日本の社会保障給付費は40年度に190兆円と18年度より6割増える。このうち医療費は68.5兆円と、75%増える見通しになっている。

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