快筆乱⿇!masaが読み解く介護の今(29)ターミナルケアマネジメント加算で次に議論すべき点

キャリアブレインマネジメント 2018年07⽉26⽇

【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】

■なぜ、「末期の悪性腫瘍」だけを対象にするのか
 本年4⽉の居宅介護⽀援費の改定では、ターミナルケアマネジメント加算(400単位/⽉)が新設された。算定対象者と算定要件は以下の通りである。
○対象利⽤者
・末期の悪性腫瘍であって、在宅で死亡した利⽤者(在宅訪問後、24時間以内に在宅以外で死亡した場合を含む)
○算定要件
・24時間連絡がとれる体制を確保し、かつ、必要に応じて指定居宅介護⽀援を⾏うことができる体制を整備
・利⽤者またはその家族の同意を得た上で、死亡⽇および死亡⽇前14⽇以内に2⽇以上在宅を訪問し、主治の医師等の助⾔を得つつ、利⽤者の状態やサービス変更の必要性等の把握、利⽤者への⽀援を実施
・訪問により把握した利⽤者の⼼⾝の状況等の情報を記録し、主治の医師等およびケアプランに位置付けた居宅サービス事業者へ提供
 これまでも居宅介護⽀援事業所の介護⽀援専⾨員がターミナルケアのチームに参加し、末期がんの⽅の居宅サービス計画担当者としてかかわるケースはあったが、それに対し報酬で評価されることはなかった。今年4⽉からは、末期がんの利⽤者に対する介護⽀援専⾨員がかかわる場合、⼀定要件に該当すれば加算で評価されることは歓迎すべきだろう。
 同時に介護⽀援専⾨員がターミナルケアに関する知識とスキルをさらに⾼めていくことが求められる。
 しかし僕には⼀つ残念に思うことがある。それはこの加算が、「末期の悪性腫瘍」の⽅だけを対象にしていることだ。もちろん、この加算の意味は在宅で亡くなる末期がんの⽅が増える中で、ケアマネジメントの充実を⽬指すものであり、ターミナルでの急な状態悪化に対応するために、ケアマネジメントプロセスを簡素化したり、状態変化などを頻回に把握するなどの対応を評価するものであるのは理解している。しかし末期の悪性腫瘍以外でターミナルケアが必要となる⼈も増えてくるし、激しい状況変化が起きない状態で終末期を過ごす⼈でも、ケアマネジャーが重要な役割を担うケースは多い。そうであれば、原因疾患にかかわらず、ターミナルケアの対象者はすべてこの加算の対象にすべきではない
かと考えるのである。
 例えば今後の地域社会では、在宅で枯れ⾏くように⽼衰死する⼈が増えていくことが⾒込まれる。⽼衰死とは、「⾃然死」なのである。それは外傷や病気などによらず、⽣活機能の⾃然衰退によって死に⾄ることを意味する⾔葉だとされている。このような時、経管栄養で、意識のない⼈に強制的に⽔分や栄養を補給することは本当に必要なのかといったことが問題となっている。せっかく楽に⾃然に逝けるものを、点滴や経管栄養や酸素吸⼊で無理やり“叱咤激励”して頑張らせるのは、⾃然死を阻害するのではないかという考え⽅が⽰され始めている。

■⾃分の親が終末期をどのように過ごしたいのか、⼦供は知らない
 このことに関連して、リビングウイルという考え⽅がある。意思決定能⼒のあるうちに⾃分の終末期医療の内容について希望を述べることであり、「延命だけの治療は拒否するが、苦痛を和らげる緩和治療は最⼤限に⾏ってほしい」などの意思を⽰し、記録しておくことだ。リビングウイルは、「⽣前意思」とも訳され、⼈⽣の最終ステージを⾃分の意思に基づいて、⾃分らしく過ごそうとする考え⽅である。
 ⼝から物を⾷べられなくなったときにどうしたいのか、治療不可能な病状に陥った時に、単に死ぬ時期を遅くするだけの治療を求めるのかなどを、⾃分で決められるうちに意思表⽰しておくという機会を逃さないようにしたいものだ。そういう意味で考えると、リビングウイルやエンディングノート(リビングウイルを含め、⾃分にもしものことがあった時のために、伝えておきたいことをまとめておくノートのこと)を記録し始める時期に、「早過ぎる」という時期はない。間に合わなくなる前に、⾃分が⼀番信頼できる、愛する誰かと、お互いの⼈⽣の最終ステージの過ごし⽅を確認し合っておくことが重要だと思う。
 とはいっても、「⾃らの死」や「家族の死」を話題にすることや、そのことについて他⼈と語り合うことに抵抗感を持つ⼈がいることも事実だ。そのため、家族間でも、死について触れるのをためらう⼈も多いだろうし、無関⼼な⼈も多い。⾃分の親が終末期をどのように過ごしたいのか、どのような考え⽅を持っているのか知っている息⼦や娘はほとんどいないのが現状で、それは家族間で「お互いの終末期の過ごし⽅」について話し合っていないことを意味している。しかし、いざ終末期になってから、本⼈に意志を確認しようとしても不可能な場合が多い。この場合、終末期になった⼈の家族が、対象者の希望・意思を想像し、経管栄養を⾏うか否かをはじめとした終末期の過ごし⽅を決めるしかない。
しかしその判断は、もしかしたら旅⽴つ⼈本⼈の意思に反したものとなるかもしれないのである。できればそのような状態は防ぎたいものだ。

■リビングウイルの⽀援は重要な介護⽀援専⾨員の役割
 そうであるが故に、居宅サービス計画を担当する介護⽀援専⾨員が、利⽤者とその家族に対し、お互いの終末期の対応について、意思確認することの重要性を伝え、そうした機会を持つことを⽀援することが必要になるのではないか。居宅介護⽀援事業所の介護⽀援専⾨員は、利⽤者本⼈の意思が確認できる時期から関わりを持つ場合が多く、終末期になって始めてかかわるケースはまれだろう。そして利⽤者本⼈だけでなく、家族とのかかわりも⽇常的に持つケースも多い。⼊院⽇数が短い病院などと⽐べると、本⼈や家族と時間をかけて関わることができるし、ソーシャルワークの専⾨家という⽴場を考えれば、介護⽀援専⾨員はリビングウイルの⽀援者として適してはいないか。多死社会である超⾼齢社会であるからこそ、その必要性は増すと考えている。
 このように考えると、リビングウイルの⽀援は極めて重要な介護⽀援専⾨員の役割であり、こうしたことを踏まえてターミナルケアマネジメント加算の評価対象者の拡⼤を図るべきではないだろうか。次期報酬改定では、ぜひ議論の俎上に載せてほしい。

菊地雅洋(きくち・まさひろ)
 1960年、北海道下川町⽣まれ。北星学園⼤学⽂学部社会福祉学科を卒業し、社会福祉⼠、介護⽀援専⾨員など多数の資格を保有。北海道介護福祉道場 あかい花代表を務める。介護業界屈指の論客としても知られ、⾃⾝が管理するBBS「介護福祉情報掲⽰板」(表板)、ブログ「masaの介護福祉情報裏板」などを通じて現場からの情報発信を続けている。主な著書に「介護の詩(うた)〜明⽇へつなぐ⾔葉」、「⼈を語らずして介護を語るな THE FINAL〜誰かの⾚い花になるために」(いずれもヒューマン・ヘルス・システム社)、「介護の誇り」(⽇総研出版)

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