外国人労働どう向き合う(上) 拙速な受け入れ拡大避けよ

上林千恵子 法政大学教授 日経新聞 2018/6/25

ポイント
○技能実習制度は不法就労拡大回避に成果
○地域を挙げ法令違反防止に取り組む例も
○人手不足業種は構造的な問題改善を急げ

 6月初め、経済財政諮問会議から外国人労働者拡大のための政策が提案された。新たな在留資格を設け、中間技能レベル、いわば一定の技能水準と日本語能力を有する外国人労働者には新たに上限を5年とする就労を認める。また在留中に一定の試験の合格者には家族帯同を認める。従来の技能実習生については、3~5年の実習期間修了後に新在留資格への移行を認める。
 本稿では長年フィールドワークで技能実習制度を研究してきた立場から、外国人労働者受け入れの課題を考える。
◇   ◇
 1993年に始まった技能実習制度は、世界各国の移民政策の中で「一時的移民受け入れ制度(TMP=Temporary Migration Program)」あるいは循環型移民制度に分類される。その本質は移民を出稼ぎ労働者として一定期間だけ受け入れる制度であり、事前に定められた滞在期間を終えれば母国に帰国することが予定される。日本の技能実習制度も滞在期間を限定しているうえ、技能実習の在留資格での再来日が不可能だ。
 米国で「H―1B」と呼ばれる高度人材向けの技術者ビザ(査証)もここに分類される。一時的移民の受け入れは基本的には単身であり、母国への還流を前提とするために若年労働者を確保しやすい。一方、永住移民の受け入れは社会的・文化的・宗教的な影響が大きい。このため近年、一時的移民制度を積極的に採用する国が増えている。
 日本政府は68年以来、外国人労働者を巡り単純労働者は受け入れないという基本方針を堅持しており、その方針が変更されたとの発表はない。他方、中小企業は好景気時には人手不足に悩まされる。技能実習制度はこのジレンマ解決のために、外国人労働者を短期滞在者として受け入れ、送り出し国への技能移転という名目で出発した制度だ。
 日本で初めて外国人労働者問題が登場したのは80年代後半だ。戦後日本の移民送り出しは50年代に最盛期を迎え、最終的に停止したのは石油危機直前の72年だ。それから外国人労働者を受け入れるまで十数年しか経過していない。当時、正規の受け入れ制度がなかったため、事態は不法就労(非正規就労)外国人の雇用拡大という形で進展した。
 従って当初の制度導入目的は、非正規外国人雇用の広がりを防ぐことにあったといえる。しかしわずか十数年のうちに意図せざる形で外国人労働者を受け入れる必要が生じたため、雇用、教育、年金・税金、医療など日本の各種制度について、外国人労働者の存在を前提に改革していく時間的余裕はなかった。
 まず技能実習制度の滞在期間は、93年には研修1年、実習1年の2年間だったが、97年には実習期間が2年に延長され、合計3年間となった。その後しばらく期間延長は実現しなかったが、2016年成立の技能実習法により、5年間の滞在が可能となった。
 技能実習の対象職種も拡大した。制度創設当初は、外国人に対する職業訓練という見地から、技能検定可能な職種として製造業・建設業を中心とする17職種が指定された。現在の対象職種は77職種だ。
 期間延長と対象職種拡大により受け入れ人数も増加した(図参照)。入国後1年目の研修生(10年に廃止、現・技能実習1号)と入国2~3年目の実習生(現・技能実習2号)を合計した人数は、08年の19万人まで一貫して増え続けたが、同年のリーマン・ショックの影響もあり11年には14万7千人まで減少した。その後、再び増加に転じ、厚生労働省「外国人雇用状況報告」によると17年には25万7千人と過去最高を記録した。
◇   ◇
 一時的移民受け入れ制度は永住型の移民受け入れ制度と比べて大きな問題を抱える。具体的には受け入れ国に一時的に滞在することにより生じる、労働移動(就労先変更)の自由や、滞在期間、家族呼び寄せなどの権利制限だ。
 しかし全般的に技能実習制度を評価すると、制度として全面的に否定するわけにはいかないだろう。受け入れに伴う不法(非正規)労働者の増加がみられないからだ。17年の実習生の失踪者数は6518人で、全体に占める比率は3%に満たない。韓国は93年の産業研修生制度により外国人労働者を受け入れたが、人権侵害が甚だしく失踪者が相次いだため同制度を廃止、04年に雇用許可制を導入した。
 日本の技能実習制度は、初期の形態を基本的には保持しつつ、25年間制度として存続している。技能実習法の下で人権侵害を予防・救済する仕組みが整ってきており、これを管轄する外国人技能実習機構も17年から業務を始めた。
 日本の技能実習制度について失踪者が相対的に少ない理由をいくつか挙げてみよう。
 第1に受け入れ職種の範囲に関して極めて厳格な審査があり、業種ごとにニーズや受け入れ職種の技能レベルについて判定がなされている。第2に受け入れ業種団体の意向が大きく働き、それが傘下の個別企業の不法な技能実習生雇用に対してある程度チェック機能を果たしている。第3に技能実習生に対して地域社会からの支援がみられる。
 技能実習生の雇用が特定地域に集中しておらず、また就労地域が人口減少の続く地方を中心としていることから、近年は実習生の受け入れに積極的な市町村が多い。さらに地域を挙げて技能実習生の失踪や労働法令違反の防止に取り組む事例もある。例えば岐阜県では「技能実習生等受入適正化推進会議」を設け、労働局、国際研修協力機構、入国管理局、県、県警察本部、関係市などが協力して問題解決への努力を図ってきた。
 地域全体で問題発生を未然に防ぐという努力は、各地域での地域協議会の設置という形で技能実習法に引き継がれている。またNPOなどが日本語教室を開催して、外国人労働者が地域へ統合されるような試みも外国人労働者が集住している地域でみられる。
◇   ◇
 このように技能実習制度は25年間をかけて内容が徐々に手直しされ、現在の25万人受け入れの体制に至ったのだ。にもかかわらず、この2倍にあたる50万人超の外国人労働者の就業を、25年までの6~7年で実現しようという今回の提案は、受け入れの速さと人数の大きさという2つの点で大きな問題を抱えている。さらに元技能実習生にさらに5年の就労許可を付与することは、将来の永住権と国籍付与との関連が問われるが、この点も明確にされていない。
 最後に短期的な人手不足という理由での受け入れは、中長期的な見通しが不可欠な移民政策になじまない。08~09年の国際金融危機時にはいわゆる「派遣切り」が起き、その対象が日系中南米人に集中したことは記憶に新しい。
 今回予定されている対象業種(建設、農業、宿泊、介護、造船業)の特性にも注意が必要だ。農業はこれまで自営業中心に営まれていたから雇用経験が乏しい。建設と造船は重層下請け構造が成立しており、末端では日本人に対しても社会保険加入が未整備のケースがある。宿泊、介護では夜勤が基本的に組み込まれており、低賃金職種が多い。
 こうした構造的な問題を改善しないまま、日本語と日本の習慣に不慣れな大量の外国人労働者を導入することは、多くの社会問題を発生させかねない。足元の人手不足への拙速な対応は避けるべきであり、中長期的な見通しの下に外国人労働者受け入れ政策が立案されることが望ましい。

かみばやし・ちえこ 49年生まれ。東京大社会学修士。専門は外国人労働と移民政策

Follow me!

仲間募集中

業務拡大につき、看護師、理学療法士、作業療法士、事務職+保育士・歯科衛生士・栄養士・管理栄養士さんを募集中。
週1回1時間から働ける柔軟で明るい職場で、子育てママや社会人学生も在籍。
すぐに考えていないけれど、少しでも御関心があれば、とりあえず雑談させて下さいませ。

Leave a Reply